◇日没から最終乗車駅(新津)まで
18時前の直江津到着時にはすっかり車窓は夜となり、次に明るい車窓を望む頃には、既にその景色は北海道である。車窓のハイライト、福浦八景はもちろん闇の中である。
車内放送では「ダイナープレヤデス」から夕食の案内が流れてくる。それとは関係なく、我々は個室内で、金沢駅で仕入れた海鮮丼の夕食。これでも十分な贅沢だろう。何しろハイテンションのあまり胃袋の「距離感」が狂って買いすぎ、食い切れなかった。腹ごなしに再び部屋を出て、幾分空席のできた「サロンデュノール」へ。
この辺りまでくると車内に体も慣れる。列車内とは思えない室内空間、レールのジョイント音すらあまり聞こえない客車特有の静寂性、闇の車窓などからか、高速で移動しているという意識は希薄になり、ただ「揺れる部屋にいるだけ」という感覚になってくる。
旅という非日常に、「トワイライトエクスプレス」に乗っているという高揚感と、それに十分に応えるアメニティにテンションは上がりっぱなしではあるのだが、一方で妙な話、「日本海」の開放式寝台の方が「旅情」は勝っているような気もした。「旅」とは非日常のほかに、特に自分のような貧乏性にとっては、もっと不自由を楽しむものなのかもしれない。
列車はこの先長岡駅と新津駅に停まるが、「乗車駅」はここまで。新津発は19時39分。どこか生活感の漂う「日本海」は寝台特急としては珍しく深夜、未明も停車したが、クルージングトレイン「トワイライトエクスプレス」は20時を前にして早くも「閉店」となる。自分も部屋に戻り、この辺りでちょっと仮眠した。 |
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夜のサロンデュノール。長岡駅停車中で、まだ宵の口。 |
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ツインのカードキー。 |
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◇「ダイナープレヤデス」の「パブタイム」
21時に食堂車「ダイナープレヤデス」からの車内放送があり、「パブタイム」営業の開始が案内された。まだそこそこ腹が膨れているが、イベントとして行かないわけにはいかない。30分ほど待って「ダイナープレヤデス」へ向かう。大混雑、と思いきや意外にも1テーブル空いており、すんなり座れた。
注文を待っている時に「おやすみ放送」が流れた。21時40分、列車はあつみ温泉駅を通過し、鶴岡駅の少し手前を走行中。「走行中」という感覚はもはや消えてしまっているが、供給電源の電圧が安定しないのか、照明が結構頻繁にフッと暗くなることがあり、むしろこれが移動中であることを思い出させてくれる。思えば今我々はもう東北地方にいるのである。
ここでちょっと車両の話を。
「ダイナープレヤデス」に使用されている車両「スシ24」は、車両限界ギリギリまで屋根の高い寝台列車のこの編成の中で、際立って天井が低い。これは昼行電車特急用の食堂車を改造したからで、この列車には欠くべからざる重要な設備ではある一方で、外観上の編成美を損ねている感は否めない。
個人的には「トワイライトエクスプレス」ではなくとも、あらゆる食堂車独特の窓配置は(遠い過去の風景だが)編成の良いアクセントなっていたと思うし、14系などの寝台車と座席車の混成編成で見られる屋根の段差や、また稀に見られる車両の飾り帯や塗装の違いなどでできる不揃い編成は、実は大好きである。
ただこの「トワイライトエクスプレス」(と「北斗星」)の「スシ24」は、側面も車両の断面形状が他の寝台車両と異なっており、横に若干膨らんでいる。牽引機関車すら含めた編成全体の塗装が統一されているだけに一層、これが外観上の残念感をもたらしていると思う。
「トワイライトエクスプレス」の所属するJR西日本は、この専用編成の製造(改造)当時寝台特急用の食堂車「オシ24」または「オシ14」を所有しておらず、供食設備のある車両が電車特急用の485系「サシ481」と489系「サシ489」しかなかったためだそうだ。これも乗車事前の「調査」過程で初めて知ったことだった。
自分の世代では「オシ24」「オシ14」は幼少期に東京発の寝台特急群にしか既に組み込まれておらず、結局体験することができなかったが、寝台車と同じ高い天井の食堂車は、電車や気動車の昼行特急の食堂車にはない開放感があったらしい。天井が低い分内装の凝った造作がよく目に映るし、それでなくても今となっては希少も希少の、存在のみでも有難い食堂車だから、これ以上の贅沢は到底言えるものではないが、編成美のみならずかすかな残念さがある。 |
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北陸本線大聖寺付近を走行中のトワイライトエクスプレス。客車の3両目が食堂車「スシ24」。 |
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「パブタイム」の食堂車「ダイナープレヤデス」 |
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さて「パブタイム」の「ダイナープレヤデス」では、生ビールとおつまみにソーセージの盛り合わせとピクルスを注文。それと、他の乗客が申し合わせたように揃って持っていた「トワイライトエクスプレスの旅」という列車案内、沿線案内の冊子が、車内の販売品であることが分かり、これもここで購入した。
個人的に居酒屋の価格帯はよく生ビールの値段で計るのだが(ちなみに家電量販店の場合は単3乾電池の値段)、ここは600円。安くはないが「ディナータイム」の価格帯を考えれば意外に安い方だろう。おつまみもそんな感じだ。ソーセージの盛り合わせは900円、ピクルスは400円。味ももちろん悪くない。
「パブタイム」は23時までだが結局22時半まで過ごした。当初満席だった車内も、途中一組二組と客は掃け、「二回転目」の客もそう増えずに、待ち客も出ることなく、我々が席を立つ頃には客も1人を残すのみだった。混雑で殺伐とするかと思われたが、意外にまったりとした時間が流れていた。やはり客の年齢層が高かったためだろうか。我々よりも夜は早く、金もあり、そして胃袋の小さな人たちだ。
フルコースディナーより断然リーズナブルでもあるし、カレーやパスタあたりの軽食もある。「パブタイム」は夜の「ダイナープレヤデス」を体験するにはおすすめのようだ。いつもこんな感じかは分からないが。 |
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ソーセージ盛り合わせとピクルス |
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トワイライトエクスプレスの旅のしおり、500円 |
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すっかり人も掃けた深夜帯のサロンデュノール |
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サロンで流されていた映画「わさお」 |
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◇就寝から未明の北海道へ
我々が「ダイナープレヤデス」を出る頃、丁度列車は闇の中で減速し始め、停車した。周囲は真っ暗だが、目を凝らすと車内灯に照らされぼんやりと板張りのホームが見える。どうやら女鹿駅のようだ。
ここで運転停車して上り上野行き寝台特急「あけぼの」と交換する。女鹿駅は山形県最後の駅で、ここを過ぎると秋田県に入る。この辺りは有耶無耶関という、福浦八景にも劣らない海への眺望の良い区間でもあるが、季節にかかわらずここは当然車窓は闇の中となる。
帰りに通った「サロンデュノール」ではなぜか昨年公開の、映画館ではとっくに上映が終わっている映画「わさお」が流れていた。わさお好きの連れはそれに食いついているので一人先に部屋に戻り、寝台をセットする。わさおを見終わって満足げな連れも戻ってきた。
この後、取るに足らないことだが、実はプチハプニングが起きていた。ハミガキに洗面所に行った際、部屋から閉め出されたのである。
連れも施錠して外に出たのかと思い、そのついでに7号車のミニロビーやその先の開放寝台などを見て回った。開放寝台は緊急用かキャンセル後埋まらなかったか、わずかに空席があった。
ではそろそろ、と戻ってもまだ部屋は空いていない。「サロンデュノール」も覗いてみたが1組のカップルがいるばかり。この車両にあるシャワーでも使っているのかとも思ったが、使用中ではなかった。怪訝に思い部屋をノックすると、中には連れがおり、開けてくれた。「あれ?どこ行ってたの?」と逆に聞かれたが、どうやらカードキーの調子が悪かったらしい。その後も何度か部屋に戻れないことがあった。 |
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ツイン下段寝台のつくり方 |
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テーブルをたたむ |
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座面を起こす |
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背もたれが下になるまでスライドさせる |
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座面を倒して背もたれと水平にする |
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対面のソファにも同じことをする |
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シーツを敷いて完成 |
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