丁度橋の真ん中辺りには何かの「フン」が落ちていた。大きさからすると熊ではなさそう。タヌキかなにかのもののようだ。自然にそう思えるほどここは山の中である。がしかし、人間ではあるまいな…?(写真も撮りましたが掲載は控えます(笑))
確かにここなら人目に晒されることはそうそうあるものではないだろうが。まぁちり紙も落ちてないし、動物であろう。この橋も巨大で立派な人工物とは言え、やはり「獣道」なのだ。 |
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この橋を渡り切ると立派なアスファルト舗装道路に出た。後で地図を見てみると、この道は田本駅の対岸、川田、神子谷といった集落へ通じているようだ。が、どうやらそちらから林道伝いに田本駅を利用するよりも、しっかりとした道路がついている隣の温田駅を利用することになるのだろう。いや田本駅と同じ岸にある田本の集落からでさえ、あのアクセス路を思えば、温田駅を利用するのが常套だと思う。 |
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さてせっかく「かの田本駅」に来ているのだから、舗装道路などはお呼びでない。橋上に戻り眼下の天竜川を眺めてみる。
田本駅の反対方向、蛇行する川の向うには丘の上に集落が見える。飯田線はその麓を走っているため、こうした民家は車内からは一切見えないが、広域な無人地帯というわけではないことが分かる。一応駅の存在理由はあると言えばあるのだろう。そしてその飯田線は…、とそれらしき辺りを目で追ってみると、丁度この橋の延長上に僅かに鉄橋が見えた。列車内からちらりとこの吊り橋が見えたのはあの地点だったのだろう。おそらくこの吊り橋に到達する手前で渡った小さな吊り橋と同じ支流を跨ぐ鉄橋らしい。 |
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視線を転じて田本駅の方向を見てみると、そこは完全なる無人地帯。川幅の広い天竜川の両脇に急角度の山並みが迫っている。田本駅は一切見えないし、また田本駅から登坂する「駅前通り」もこの角度からは全く見えない。
まぁ「駅前通り」からこの吊り橋が見えたのは木々の切れ間からかすかに見えたに過ぎないので、こちらから見えるはずもない。つまり無人地帯どころか、人工物が一切見当たらないのである。
と「駅前通り」を探しながら山の中腹を目で追っていると、山腹に小さな緑色の明かりが見えた。この周辺には異質な人工物である。デジカメのズームを最大に伸ばしてファインダーを覗いてみるが、ぼんやりとした光がゆらめいているに過ぎず、得体は知れない。
夕刻の太陽は既に迫る山並みに隠れており、もしかしたらデイライトセンサーなどで自動点灯した「駅前通り」の街灯だったのかもしれない。「駅前通り」を歩いているときにはまるで気付かなかったが、どうやらあの道には街灯があるらしい。しかし夜にあの道を通る人はいるのだろうか。 |
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ところで田本駅へは、そもそも外部からは熟練のオフロードライダーならなんとかバイクで、と思ったのは「駅前通り」よりも、むしろこの橋を通るルートがあったからである。途中一部落ち葉の積もった急勾配はあるものの、未舗装ながらほぼ水平の道である。
ただしこちらもやはり問題は橋。天竜川の奔流に架かる橋は多少のことでは崩落はすまい、が、万一転落したら、助かる見込みの方が小さそうだ。またさらに支流に架かるあの小さな吊り橋もある。こちらもこちらで橋自体が崩落することはないだろうが、バイクほどの荷重がかかると「床」を踏み抜く危険がありそうだ。
やはりこちらのルートもお薦めできない。結局田本駅へのアクセスは、地道に歩くのが一番であろう。 |
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吊り橋を渡った地点からは自動車も通れる舗装道路になる。当然吊り橋には車が進入できないように輪止めがある。 |
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吊り橋から見た田本駅方向。線路は右岸にある。おそらく画像奥、左岸の浅瀬の対岸辺りに駅がある。 |
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6.田本駅だって進化する |
橋上でしばらく過ごした後、またまた駅へ戻る。もう少しのんびりしていたかったが、ぼちぼち列車の時刻が気になってきた。
駅に戻るとようやく駅そのものの「取材」を開始。
田本駅の駅施設は、両側をトンネルに挟まれた崖にへばりつくように狭い片面ホームがあり、ホーム下り方の一部広くなったところに屋根つきの待合室がある。 |
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今回この駅に降り立ったときの第一印象がそうだったのだが、意外にこの駅、掃除が行き届いてきれいなのである。前回訪問時は落ち葉が散乱し、夏だったので生体・死体を問わず、やたらとカブトムシがいた記憶がある。
こんな駅もしっかりと清掃されているのだと思うと、やはり人の残滓を感じる。この言わば閉鎖空間で、なんとなくほのぼのする。 |
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人の残滓と言えば、このホームが「しがみついている」崖に擁壁と落石防止フェンスが施されている。敷設年月を見ると、2001年と2004年。ということはホーム下り方にある新しい擁壁は前回訪問時にはなかったものである。着実に「進化」もしているのだ。
さらにこれは前回訪問時もあったものだが、ホーム上には通常の駅ホーム同様点字ブロックがある。今では当たり前の設備ではあるが、果たして目の不自由な方がこの駅に降り立つことはあるのだろうか、というより白いステッキでも持った方が単独でこの駅で降りようとするものなら、乗務員はこれを必死で止めるだろう。
駅である以上当然あるべき設備とは言え、有効性は甚だ疑問である。まぁしかしこれもおそらく他駅同様国鉄時代にはなかったものであろう。これも進化の形跡である。 |
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またこの駅には反対に、他駅には当然あるものがない。ゴミ箱と灰皿である。今の社会、灰皿はともかく、ゴミ箱がないというのはこの駅の環境がなせる業だろう。回収が困難なのだ。山中の観光地よろしく「ゴミは各自で持ち帰りましょう」の精神というわけか。前回訪問時は特に気に留めなかったが、ゴミ箱などは、もし前回はあったとすると、これも一つの進化。いわば「退化も進化」というヤツであろうか。
最後にもう一つ、最近よく見かけるものが他駅同様あった。無人駅によくあるものだが、待合室に貼られていた、「警察官立寄所」の札。…ホンマカイナ。 |
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さてこれで田本駅、周辺も含めてようやく「取材完了」。待合室のベンチに腰を下ろし、見上げると既に日は山の向こう側。薄暗くなりつつある。日も短くなったもんだと思いつつ、このまま夜になると心細くもなるなあと思ったり、それも見てみたいと思ったり…。
統計によると田本駅の利用者数はなんと平均2人/日。まぁしかし実際に訪れると計算上毎日誰かが利用していることになることの方が驚きである。ここまでいくと、ここまでいっているが故に訪れる人が出てくるわけだが(というより前回訪問時の自分がまさにそれである(笑)。)、そういった人たちがなんとか利用者数を底上げしているのであろう。
似た環境の、四国の坪尻駅や東北の赤岩駅、押角駅などは定期利用者がいるとも聞いたが、この駅は果たしてどうなのだろうか? |
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ふと見ると駅ノートがある。これは以前からあったものだが、虫対策なのか、プラスチックのケースに収められている。ちょっと覗いてみる。パラパラとページをめくっていると、
「ゴゴン…、ゴゴン…」
一瞬空耳かと思ったが、見るとカーブしたホームの先にヘッドライトが見えた。いつの間にか乗車列車の到着時刻となっていたのである。
豊橋駅で、痛む腰を押さえつつ、必死で「対策」を練った田本駅での72分は、かくしてあわただしく過ぎてしまっていた。パンも、お茶も、本も、電池も、結局ここでは全く手をつけないまま、単なる荷重と化していたのであった。 |
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崖が迫り、かなり狭いホームの上り方。こんな立地の駅なのに、「一丁前に」点字ブロックがある。 |
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待合室のあたりには新しい擁壁がある。うちホーム下り方のものは2004年5月の設置。 |
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待合室の中の様子。ゴミ箱はない。左の小さな棚には駅ノートが置いてある。 |
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ベンチの下には「お掃除セット」。これがキレイな田本駅と人のぬくもりを与えてくれる。 |
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う〜ん、嘘っぽい。 |
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乗車列車が到着。そして田本駅は無人の闇へ。 |
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7.エピローグ |
さて、こうして久しぶりに訪れた田本駅を、慌しいながらも満喫したわけだが、一つ驚いたことがあった。なんと携帯メールが着信したのである。
中部天竜〜天竜峡間の「大都会」水窪でも場所によっては覚束なかったにも関わらず、吊り橋へ向かうあの林道の只中で着信、見るとアンテナは見事に三本立っていた。自分の使用しているボーダフォンは他社よりも山中に強いと聞いたことがあるが、とにかく感心するやら呆れるやら。
ちなみにそのメールは地元の友人からであった。
「今どこ?金沢は大雨。帰り、気をつけてな。」
この頃地元では「バケツをひっくり返した」という表現も全く誇張ではないほどの土砂降りだったらしい。そう言えば昨日、この飯田線沿線の平岡でも売店のおばさんが「昨日はあんなのしばらく見たことがないってくらいの雨が降ってさぁ…」なんてことを言っていたっけ。
なんだか自分はその強烈な雨雲をかいくぐるように移動しているみたいだ。道中、まるっきり雨には逢っていない。 |
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ふっふっふっふっふ… |
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「雨男じゃないっ!」 ←自信がなくなっていたらしい。 |
おわり |