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筒石駅訪問記 その2

次は列車の運行に関わらない、筒石駅の重要な要素を体験する。言うまでもなく、「階段」である。

それなりに幅のある階段が、薄暗いトンネル内を地上に向かって伸びている。何と言おうか、奇妙な光景、つくづく特殊空間の駅だと認識する。
相当な体力を要すると聞いていたこの階段だが、意外にすんなりと上り切ってしまった。息も切れていない。最初は正直不安もあった。何しろつい先ほど糸魚川駅から梶屋敷駅までを歩いている。「楽勝、楽勝」と臨んだこの区間、意外に遠かった。楽勝と思っていただけに必要以上に体力を消耗してしまっていた。が、日頃ろくすっぽ運動などしていないが、学生時代は運動部に所属していたし、この程度の体力はまだ健在だったと一安心。
しかし階段を上り切っても以前地上で外から見たことのある駅舎は見当たらない。まだ通路は続くようである。
下りホームから階段を上り切ったところから、通路を右へ進むと上りホーム、左へ進むと出口、つまり駅舎の方向となるようだ。
左へ進み、角を折れて唖然。今ほど上がってきた階段よりはるかに長い階段が口を開けていたのだ。先ほどのカップルがぜいぜい言いながらその中ほどにいるのが見えた。
さすがにこの階段を上りきる頃には自分も息が上がっていた。所詮普通の人となっていたのだ。

しかし予習が足りなかったとは言え、この二段階の階段には一本取られてしまった。同じトンネル駅、上越線の土合駅も訪問しているのであるが、そこは一直線の階段だった。その土合駅より「浅い」筒石駅、とタカをくくっていたのが「敗因」である。甘くはなかった。
ホームから地上の出口へ向かう、第一の階段。ここはそれほどの段数はない。
第一の階段を上りきったところに、一旦水平となる通路がある。上下ホームの分かれ道である。
そして地下部分の中ほどにある通路から駅舎を結ぶ第二の階段。先の階段よりもはるかに長い。小さな地上の光を目指して、虫になった気分。
全ての階段を上り切った地点。385段とありますが、下りホームまで290段、上りホームまで280段だそうです。ちなみに土合駅は462段。しかし精神的ダメージのため要した体力はこちらが上だった。
さて地上の駅舎にきてみると、この筒石駅、至って普通の駅である。
駅舎の構造はおそらく軽量鉄骨造。安普請は否めないが、待合室があり、窓口があり、改札というかホーム入口がある。唯一特殊な構造の駅と思わせるのは構内が全く見えないこと。
まぁそれを言えばその時点で全く駅っぽくないのだが。
しかしこの駅、地下の構内ほどではないにせよ、「地上部分」も中々面白い。
まずこの手の駅に必需品とも言える駅ノートがある。が、思えば委託とは言え駅員配置駅にコレがあるというのは珍しいのでは。
駅員配置駅、しかももてなしの心に溢れているこの駅員さんたちのいる駅、ということで駅舎内は小ぎれいに片付いているし、何やらハンドメイドの工夫も色々見られる。
駅舎入口は一見普通のアルミ戸だが、滑車と重りを付けて「半自動化」されている。新しい施設に見られる市販のハンガードアではもちろんない。手製なのだろう。駅舎の外にあったゴミ箱はJR仕様ではなく、一斗缶を流用した分別ゴミ箱である。一見貧乏くさいがこの環境が欲目を呼び、なんとなくほのぼのとしてくる。
また自分の訪問時はなかったが、改札に風鈴があることがある。先ほどのトンネル内の突風が階段を伝い、駅舎内へも流れ込むのを利用した、駅名物である。
あとついでによく知られていると言えば、「赤い青春18切符」が売られる駅ということも付記しておこう。
駅舎外は山中。周囲には民家は僅かばかりあるものの、駅の脇を流れる筒石川が深い渓谷を形成しており、断崖には見事な地層が見られる。駅前に来る道路は山道に続いており交通量も少ない。
鳥のさえずりと渓流の音だけが聞こえるとても長閑な立地である。
駅舎出入口の手製半自動扉。
一斗缶を並べた分別ゴミ箱。
駅舎内に戻ると丁度列車が到着するようで、駅員さんの一人が「では下へ行ってきます。」と構内に入っていった。列車が到着するたびにあの階段を行き来しているのだ。肉体的にも大変な重労働であろうが、そんな素振りは見せず、人当たりの良い応対を貫いている。仕事とは言え、頭が下がる思いだ。

待合室にはもう一人、本格的なカメラバッグを抱えたおじさんが駅ノートを読んでいた。いつどこから来たのか、まるで気付かなかったが、明らかに「鉄」な人である。
次に乗る列車までしばし時間がある。先ほどのカップルは車でやって来ており、既に去っている。駅員さんも作業中だし、この狭い待合室で二人、無言で過ごすのもどうもバツが悪い。おじさんが駅ノートを所定位置に戻したところで声をかけてみた。
どうやらこの人も「駅取材」の旅のようで、東京からやってきたそうだ。これから大糸線で列車を撮ったのち、夜中に東京へ戻るらしい。自分も駅を廻っており、先ほどは梶屋敷駅から来て、次は青海駅で降りる予定だと告げた。
そろそろ列車の時刻が迫ってきた。駅員さんとこのおじさんとともに一緒に階段を下りる。
ちなみに駅名である筒石という名の集落は漁港であり、ここから1キロほど山を下った海縁に展開している。旧線時代の筒石駅はその集落の中にあった。
新線切替の際、当初は駅を移設できる用地など確保できず、新線開業と共に廃駅となる計画だったそうだが、地元の請願により移転存続した。しかしその後ご他聞に漏れずモータリゼーションの波が押し寄せ、山中の地中深くに押しやられたこの駅の利用者は当然のごとく減っていった。

地元の請願により無理矢理設置した新駅はしかし、地元の客離れの反面、その特殊な構造ゆえに「全国区のローカル駅」となった。駅として、利用者の多寡がまず問われるのは避けられないが、数字には表れない魅力をこの駅は持っている。言うなれば「記録より記憶に残る駅」。そしてそれをこの親切な二人の駅員さんが見事に体現しているのだ。
乗車列車がやってきた。駅員さんに「ありがとうございました。」と声をかけて乗り込む。ついつい口に出たが、こういう気持ちになってしまう駅というのもそうそう多くはないのではないかと思う。
(余談)
さてこれから次の下車駅、青海駅へ向かう。列車内でも筒石から一緒に乗車したおじさんと話をしていた。駅巡りに話が及ぶとおじさんは熱心にこう薦めてきた。

「駅に興味があるなら門司港駅は行っておきなよ。本当に素晴らしい駅だ。」

門司港駅…、確かに魅力は感じる駅だが、九州は中々行きづらい。特に夜行バス福岡〜金沢線がなくなってからは本当に九州は遠い場所になってしまった。
魅力は感じる、だが遠すぎる、だが魅力は…

「いやぁ、九州はさすがに遠いですからねえ、中々行けないですよ。」

しかし舌の根も乾かぬ2か月後、ゴールデンウィーク真っ只中のある晩、自分は美しくライトアップされた夜の門司港駅の前に、息を呑みながら佇んでいたのだった。
「筒石駅に行った」→「門司港駅を見たくなった」。なんだかよく分かりませんが、夜の門司港駅。
おわり
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