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田本駅訪問記 〜田本の72分〜 その2

「駅前通り」を進むが、やはり結構キツイ。九十九折の山道である。今現在自分の知るうちでこのレベルの「駅前通り」を持つ駅と言えば、山陰本線の餘部駅くらいだろうか。
ただ餘部駅は辛うじて、本当に辛うじてだが、「一気に駆け上がる」ことができた。が、この田本駅のものはさすがにムリ。距離が全然違う訳だ。
ちなみに餘部駅は海抜0mから大よそ高度40mの餘部橋梁脇に上がるので高低差は約40m。田本駅は駅から県道まで高低差約200mの軽登山となる。(おそらく一番似た環境の駅はこの後訪問した土讃線坪尻駅でしょう。でも田本駅の方がキツかったように思います。)
「駅前通り」は崖側にも木が生い茂り、見晴らしはよくない。ただひたすら黙々と山道を登る。しかし本格的に駅巡りを始めて体力が幾分かついたのだろうか、前回「もうアカン」と一旦休憩した記憶のある場所は難なく通り過ぎてしまった。

さらに進むとこの道もろとも崖が崩落したような地点に出た。そこには鉄板を敷いたような桟橋が架けられているのだが、少々心許ない。もちろん人間が通ったところでなんともないだろうが、冒頭で触れたとおり、オフロードライダーがバイクで田本駅にたどり着けるかどうかは、ここがクリアできるかどうかが関門であろう。
ただし滑落したら発見まで何日を要するか分からないし、この橋自体が崩落したら田本駅は孤立してしまう。(それ以前の問題か(笑)。) そもそもオフロードというよりも、あきらかにクロスカントリーの世界である。まぁ挑戦はやめた方がよいだろう、と言うか、やめて下さい(笑)。(ちなみにこうした橋が架かった箇所は二箇所あります。)
崩落したのか、獣道さえつかない地滑り危険箇所だったのか、桟橋が架かった箇所があります。ここに渡されている鉄板は一部腐食しており、あまり気持ちのよいものではない。
こんなところにゴミなんて、とは思うものの、この山中で「文字」というものを見かけ、人の残滓に触れた気分になる。なんとなくホッとしたのも実際のところ。
二箇所ある桟橋の間では一旦木々が切れて天竜川が僅かに望める箇所もあった。
駅ホームでは水面上10m程度の位置にいたと思うのだが、ここからは完全に「眼下に見下ろす」といった表現となる。ここでやっとどの程度登ってきたかが実感できる地点に出会った。しかしそういう箇所もごく僅か。またすぐに森に覆われた道中となる。
次第に勾配が緩くなり、さすがにかなり呼吸が乱れてきた頃、ようやく民家が見えてきた。ほどなく左上から接近してきた小路に合流し(実際はこの道路が水平に近い)、この「駅前通り」は終わる。
そしてさらにその先30mほどでこの小路も2車線の県道に接続し、ようやく田本駅から「通常の」道に出ることになる。

振り向くと小路の脇に間道というより獣道のような心細い一条の「筋」が谷下へ延びている。これが今通ってきた「駅前通り」である。小さな「田本駅」の誘導看板があるが、これがなければ駅へ続く道だとは到底思えまい。いや、これがあっても何かの冗談だと思う人の方がむしろ正常ではないだろうか。
倒木の隙間から天竜川が見下ろせる箇所があり、ようやく歩いてきた高度を実感できた。段丘上には集落も見える。
木々の切れ間から僅かに見える川面とそこに架かる吊り橋。この吊り橋へはこののちに訪問する。
「駅前通り」始点。道路の分岐点のその手前に左に分岐して下っているのが「駅前通り」。
左の画像の分岐点のアップ。この看板を信じられるか、そして道中信じぬけるか。
駅からここまで所要13分。写真を撮りながらとは言え、もっと長く感じたが、しかし13分坂を登り続けただけでヘトヘトになっている自分がなんだか情けなくなる。
しかし到達の目安として言われているのは20分。そう思えば捨てたもんでもないか、と思いなおすものの、じゃあ人に「どのくらい時間がかかるか?」と尋ねられたなら、この体験を踏まえても、やはり自分も「20分くらいかかるよ」と答えるだろう。多分所要13分は標準的な到達時間なのだろう。
県道に出たところにはちょうど清涼飲料水の自販機が並んでいる。田本駅からここへたどり着いた人への配慮であろうか。気の利いた場所にあるものだ、と一本購入。…しようと思ったら、500円玉を「飲んで」くれない。財布の中を見ると小銭はほかになく、あとは「大きな札」のみ。ぜぇぜぇいいながらうなだれてしまった。
豊橋駅で買っておいたお茶があったからよいものの、これがなければその場にへたり込んだかもしれない。でも結局その持参したお茶を口にする気もなくなってしまった。

周囲を見るとこの自販機を設置しているのは商店らしいのだが、閉まっているようで商店には見えない。というよりむしろただの民家に見える。向こう側にはこの商店と同じ店主なのか、同じ店名の焼肉屋がある。この状況で焼肉も何もあったものではないが、それ以外は数軒民家があるのみ。駅名である田本の集落は、ここからさらに少し距離がある。
「駅前通り」の始点から見た県道方向。県道直前に合流するこの道自体、県道からは発見しづらい。
田本駅から出た県道。駅から来た人用にか自販機が並ぶ。奥には焼肉屋がある、が、集落というほどではない。
さてせっかく「登頂」を果たしたが、自分は田本駅から再度列車に乗る。というわけで来た道を引き返すことになる。帰りは当然下り坂。体力的には行きよりも随分と楽ではあるが、ここまでの勾配となると、ブレーキをかけつつ下ることになる。しかもしょぼいツッカケを履いているために、これはこれで結構な運動である。結局戻るまでに要した時間は、行きと全く同じ13分であった。
5.もう一つの「脱出路」へ
さて駅まで戻っては来たが、お次は「駅前通り」唯一の分岐路、駅を見下ろすトンネルポータル脇の、右への道を探索する。
この先には天竜川を跨ぐ吊り橋があるらしい。この橋は田本駅下車直前の車内からと、先ほどの「駅前通り」登坂中にちらりとその姿を確認している。こちらの道は前回訪問時は通っていないため、今回が初トライである。
こちらの道は完全に未舗装ながらほぼ水平で、またわりと道幅がある。しかし先ほどの「駅前通り」に勝るとも劣らない森の中、というよりこちらは竹薮の中の道である。日も傾いてきていることもあり、薄暗い。熊などが出ても全く不思議ではない、と思うと自然になるべく足音をたてて歩くようになる。
しかし先ほどから二度ほどちらりと見る機会のあった目的の吊り橋だが、その都度若干の違和感を感じていた。
「あの分岐点から右に進むと吊り橋がある」程度の予備知識しかなかったので、すぐそこにあるのだろうと思っていたのだが、実際見ると、想像していたよりも駅から離れていたからである。「あれがそう、…なのか?」といった目で見ていた訳である。
が、やはりこんな場所に、この広い川幅の天竜川にかかる大掛かりな橋がいくつもあるわけはなく、つまり、思ったより遠かったようである。中々その橋は姿を現さない。
5分ほど歩くと正面に小さな吊り橋が見えた。「…これ?」と目を疑うほど小さい。おまけに一部破損しており、端しか歩けない。これでは一休さんも形無しである。くだらないことを考えている場合じゃない。
が、思えばこの橋は天竜川と並行に設置してある。支流の小川に架かる橋のようだ。そしてこの橋を渡る手前、ふと見上げると、目線の右上には天竜川に垂直の、巨大な吊り橋がその姿を現していた。木々に覆われた林道であったため、ここまで接近しないと姿を拝めないのである。
支流に架かる小さな橋を過ぎると1分程度でその長い吊り橋の袂に出た。相当な高度と長さのある吊り橋だが、つくりはしっかりとしており、歩いてみると吊り橋特有の上下動はあるものの、左右には殆ど揺れない。同じ飯田線の為栗駅も駅へのアクセス路が似たような吊り橋であるが、このような橋は天竜峡と呼ばれるこの辺りには多いのだろうか。
そもそも吊り橋は橋脚が不要なので、設置理由と言えば川の増水対策である。水面への高度差がかなりあるこの吊り橋は、よほどのことがない限り流失することはないだろう。ただ台風などの災害時、暴風の中、濁流の川上をこの橋で渡りたいとは思わないが。
吊り橋へ向かう道。「駅前通り」に勝るとも劣らない森の中の道である。(田本駅方向を向いて撮影)
お目当ての吊り橋の手前に小さな吊り橋が出現。一部破損しており簡単に補修されていた。
ふと見上げた先に、お目当ての吊り橋が姿を現す。森の中のアクセスのためまるで見えなかったが、意外に近くまで来ていた。
吊り橋に到着。しっかりした鉄製の柵があるため、高度や揺れはあるが、よほどの恐怖症でなければ問題なく渡れる。
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