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晴れのち曇りの北海道
〜後編:駅の宿ひらふ宿泊ルポ〜 その4

◇ホームでバーベキュー

我々はしま太郎と遊んだり、ホームをうろうろしたりと思い思いに過ごした。やはりまだちょっと体調は悪い。しかし胃薬が効いたか、幾分持ち直している。
が、ふとオーナーさんの「炊事」の様子を見てギョッとした。

「コレ、…一人前、…すか?」
「そうですよ。焼きおにぎりも2つずつありますよ。」


さらりと言うが、遠巻きには二人前かと思っていたバーベキューの食材が、見ると二皿あったのである。

比羅夫駅の周囲には店らしきものは何もない。そして夕食は、イメージ的に「とても多い」か、「とても少ない」かのどちらかだろうと踏んでいた。そして「少ない」場合に備え、事前に泊村のコンビニでおつまみ程度を買い出ししたのだが。

ホームバーベキューの今日の食材は、羊肉、サンマ半尾、エビ、ホタテ、ウインナー、ジャガイモ、玉ねぎ、ピーマン、カボチャ、というラインナップ。文字で書けば普通の、ちょっと北海道テイストのバーベキュー(サンマはちょっと珍しいが)だが、しかしそれぞれがデカイ。さらにこれに小さめの砲丸クラスの焼きおにぎりが2つつく。これが一人前。

それでは連れの待望の、ホームでのバーベキューによる夕食、まず缶ビールで乾杯。そして量も豪快なバーベキューに挑む。
魚介、肉、野菜、どれも美味い。食材自体の味ももちろんとして、この環境が引き立ててもいたのかもしれない、が、体調不良のプチ病み上がりが純粋に美味いと思ったのだから、間違いないだろう。
しかし如何せん量が半端ない。ある程度食べてはホームを歩いて腹ごなし。それでも焼きおにぎりは無理だった。超腹いっぱい。「駅の宿ひらふ」の夕食は、「とても多い」の方だった。

しかし実際このホームのバーベキュー、中々楽しかった。周囲は北海道の大自然、しかも食事中に、駅だから当たり前だが、列車が何本か発着していった。運転手も乗客も、何やってんだ?という目では見ない。この駅の日常風景なのだ。
ニセコ方面からの小樽行列車が到着。軒下ではオーナーさんが食事の用意をしてくれている。
今日のバーベキュー食材。これでまさかの一人前。
北海道の食材を炭火で焼いて食べる。
しま太郎は駅改札口の上で待機。かと言って食べ物に飛びつくわけでもなく、じっとしていた。
当然バーベキュー中にも列車は到着する。
軒下にバーベキューセット。こんな食卓。夏ならまだ薄明るいか。ちなみに連れは腹ごなし中。

◇コテージ「のるて」と名物丸太風呂


さて腹一杯になって、また腹ごなしにホームをウロウロしている頃、オーナーさんと末の娘さんが風呂の用意をしてくれていた。

この宿の風呂は我々の泊まるコテージ「のるて」と駅舎の間にある小さなログハウスだ。内部も木製。湯船は丸太をくり抜いた、豪快なもので、「駅の宿ひらふ」の名物の一つだ。温泉ではないが、羊蹄山の湧水を沸かしたものらしい。(前年まで石炭で沸かしていたらしい。今は石油ボイラーで追い炊きが可能になっているとのこと。)
一見不安定そうなこの丸太風呂もかなりしっかりしており、ゆったりとした姿勢で入浴できる。湯加減も丁度よい。こりゃ確かにここの名物だわ、とすっかりリラックスモードである。

風呂から上がって部屋に戻る。もう一つのコテージ「すーる」にも客がきたようで、賑やかな談笑が聞こえる。声からすると若い4、5人のグループのようだ。

コテージ「のるて」は最大4人用。居間と、ベッドが2つ並ぶ寝室、梯子であがるロフトがあり、そこにもう2人寝るスペースがある。洗面所、トイレも室内に完備されている。

まだ20時頃。しかし腹も膨れ、風呂でゆったりし、そして前夜は興奮気味のトワイライトエクスプレス、昼は半日ドライブのうえに不覚の湯当たり、ということで急激に睡魔が襲ってきた。この日はぐったりだろうな、というのも当初から織り込み済み…、とか思いつつ寝入ってしまった。
ログハウスの浴室。左手にあるのが丸太風呂。
「のるて」の内部。これは居間。
二つのベッドが並ぶ寝室。
二人が寝るスペースのあるロフト。

◇暗転


ふと目が覚めた。時刻は22時半。雨音が聞こえる。連れも隣のベッドで寝ていた。
比羅夫駅の立地環境は事前に訪れており知っていたので、夜中ホームに出て、ニセコアンヌプリのシルエットに、星なんか見えたら最高だろうな、などと考えていたのだが、窓の外を見ると、ホームの照明にかなり強い雨が照らし出されている。これではどうしようもない。

再び目が覚めた。夜中にも意外に列車が走る音が聞こえる。どうも保線車両が駅の前後を行ったり来たりしているようだ。窓の外を覗くと雨は上がっていた。ホームの照明は消えていたが、曇天の空がぼんやりと明るい。

ちょっと外に出てみようと思い、連れを起こさないようにそっと起き上がる。そしてスニーカーに足を入れようとして飛び上がった。そこには並々と雨が溜まっていた。玄関口の小さな軒下は全く雨除けにはなっておらず、ふと見ると室内にしっかりとした下駄箱があった。間抜けにも雨の中に二人分の靴を放置していたようだ。
下駄箱にあったサンダルを履いて外に出て、2足の靴を順に振り回して簡易脱水。道中温泉に寄る旅程だったこともあり、丁度タオルを4本持っていたので、それぞれの靴に突っ込んだ。

やれやれ、とホームに出る。今何時だろう、とスマートフォンを見ると2時半少し前だった。曇天を眺めながら、そのまま何気なく、そういや月曜日に来るって言っていた台風ってどうなったのかな、と調べてみた。本当に何気なく天気情報を見て、そして絶句した。


思ったより近づいている。


前述のとおり台風が来ているのは事前に知っていた。しかし進行が事前の予報よりも丸一日分速い。月曜日の晩に達するであろう位置に、今日の夕方に達する見込みとなっている。しかも今シーズン最大の勢力を持った大型台風で、沖縄では死者も出たらしい。そして丁度帰路の便が新千歳空港を発つ16時頃から、小松、金沢辺りが暴風域にかかるようだ。

気になって交通情報を見てみると、沖縄、九州などを離発着する航空便は、軒並み欠航となっていた。新千歳小松便についての情報は何も見つからないが、それとは別に看過できない情報があった。新千歳伊丹便、旭川伊丹便の一部に、既に欠航が出ていたのだ。

ゾッとした。多分これから東に向けて欠航は増えていく。まだまるで暴風域にかからない、北海道と関西を結ぶ午前の便が未明に欠航決定だとすると、夕方16時20分に北海道から北陸へ飛ぶ便など、普通に飛ぶと考える方がおかしい。
詳しい状況は分からないかと新千歳空港のフライト情報を見ようとしたが、これは朝5時20分からのサービスで、今は見ることができなかった。

今自分が立っているこの比羅夫駅のホームと、夕方には戻っているべき地元金沢との距離を思うと、そしてその移動手段の選択肢の貧弱さを思うと、あまりにもこの足場が非現実的なものに思えてきた。

さて、どうするか。せっかくの北海道。小松便はまだ欠航すると決まったわけではない。現状では予定どおり北海道を楽しめる可能性は十分にある。が、状況からすると成り行きまかせはあまりに無謀だ。

ここで思いついたのが、空路の新千歳富山便の存在。これも小松便と同じエアドゥ・ANA共同運航の一日一便で、定刻では11時20分に新千歳空港を発つ便だ。これが使えないか?
小松便のプラチナチケット状態を思えば、この富山便が当日押さえられるか。ましてや早くも関西方面の欠航が出ている。暴風域に入る前の北陸方面へ一旦飛んで、陸路で関西へ向かう人も大量に出てくるだろうし、続いて名古屋便の人たちも加わってくるだろう。可能性は極めて低いと思われた。さらに今の小松便を放棄する不安さもあるし、富山便を一から取り直すことになると金銭的にもバカにならない。

しかし、やはりリスクは最大限排除すべきで、まして今は一人ではない。多少旅程切り上げの時間的コストや、追い銭の金銭的コストを払おうとも、リスクの可能性が最も少なくなる可能性を選択すべきだ。
決めた。予定を繰り上げて小松便をキャンセルし、富山便で帰る。その可能性のために、とにかく動いてみよう。
夜の比羅夫駅ホーム。ホームの照明が消えると完全な闇となる。
夜10時半、コテージから見るとかなり強い雨が降っていた。
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