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北陸鉄道 能美線廃線跡 その2  (本鶴来〜岩本)

七ヶ用水の橋梁跡からの土手の、国道バイパスを越えて、その延長上に手取川に対面するとこんな地点となります。
多少の方向修正はあってもこの視界の中に、かつての手取川橋梁があったはずなのですが、全く痕跡はありません。
また対岸の山には能美線の「天狗山隧道」があったそうで、あの山のどこか、やはりこの視界の中にトンネルポータルが見えるはずですが、やはり見当たりません。
どういう形で川を越え、隧道に突入していたかは知りませんが、能美線は国道バイパスを境にフッと消えたように足取りが途絶えます。
旧鶴来町(現白山市)から旧辰口(たつのくち)町(現能美市)へ向かう県道橋「天狗橋」から能美線の渡河方向を見た図。
この画面の幅一杯に左右に渡る鉄橋があったことになるのですが、やはりヨコから見ても、橋台や橋脚などの一切の痕跡もありません。
同様に対岸を見て回ってもトンネルポータルはやはり見つかりませんでした。(天狗橋脇に橋台跡がありましたが、県道橋旧橋の遺構でした。)
…と、この日は能美線の手取川橋梁、天狗山隧道の遺構は完全に撤去されて「一切の痕跡なし」として、それ以上は探索せずに先へと進みました、が、その道中ある場所で、衝撃的な写真に出会いました。
それがこの写真。
辰口温泉駅跡に新たに保存された北鉄旧車内(後述)に展示されていた写真です。
手取川橋梁が垂直の断崖に突き刺さり、そのまま隧道が穿たれています。現地(2枚上の画像)を見る限り、緩やかに右カーブすれば、こんなアクロバティックな線形を取る必要がないように思えましたし、そればかりか隧道が不要になるようにすら見えます。ましてや新寺井駅は画像の右の方向で、能美線全体がそちらへ向けての旋回中。
しかしとにかく、対岸の垂直な岩肌のど真ん中にトンネルポータルがあることが分かりました。
現地の画像対岸に、真夏の木々に覆われた断崖がわずかに顔を出しています。これは「天狗壁」と言う岩壁で、「天狗山隧道」や「天狗橋」の由来となった地形。古くは上杉謙信の加賀侵攻時の記録にもその名が残っているそうです。
で、この探索の1年半後の平成21年11月、木々の葉の落ちる時期に見に来ました。下の画像は2つ上の画像と同方向。露出した岩肌の、中段左よりに黒い影を発見。デジカメのズームを最大に伸ばすと(右下の画像)、板とフェンスで塞がれたトンネルポータルが確認できました。
この天狗壁付近は良質な凝灰岩の石切場となっており、また鉄道以外にも林道や用水路の隧道が多く掘られているため「黒い影」が多く、また接近は当然不可能なので、この季節でも容易に発見、という訳にはいきませんでした。
右の画像の案内板は天狗壁の脇にひっそりあったもので、「能美電鉄隧道」があったことは記載されていますが、それを示す図が読み取り困難な状態でした。
ただこの看板に先に気付いていれば、ポータル発見はもう少し早かったかもしれません、が、いずれにせよ晩秋から冬でないと見分けられないでしょう。
秋まで待たないと発見できなかった天狗山隧道ですが、新寺井方のポータルはこの日に確認しています。
路線が「鶴来駅から南進して、西の手取川、北東の新寺井へ向け大旋回中」という線形を意識しておけば、わりと苦労なく発見できます。
天狗壁の鶴来方ポータルの「裏」ではなく、むしろ「側面」、天狗橋からの県道脇あたりに口を開けています。
またこちら側のポータルは足元が濡れることをいとわなければ接近も容易ですが入口はフェンスで塞がれており立ち入りはできません。天狗壁側のポータルも上部はフェンスで空気は抜けるため、この夏の日にも隧道内部から冷気が吹き出していました。
天狗山隧道を出ると山裾にしばらく不明瞭ながら路盤跡があります。能美線廃止に先立って廃止された天狗山駅がこの辺りにあったのかも知れません。
天狗山駅は開業時は新鶴来駅を名乗っていたそうです。この駅名にして旧辰口町域ですが、隧道と橋梁の開通以前の、大正14年開業区間の終着駅であり、隧道・橋梁開通後に「本当の」鶴来町に達したために、改称、さらにお役御免で先行廃止という経緯だったのでしょう。
また旧鶴来町への隧道・橋梁が、路線開業後、当時の石川電鉄接続のための「後付けプラン」であったとすれば、やや無駄かつ強引に思えたルート取りも納得できる気がします。

この辺りの路盤には朽ちかけた小屋があり、錆びた犬釘が落ちていました。いずれも鉄道由来のものと断定はしかねますが…。
山裾の荒れた路盤跡は数百メートルで終わり、県道に取り込まれるように合流すると、「のみバス」というコミュニティバスの岩本停留所があります。そしてその近くに公園のように整備された区画が岩本駅跡。
駅跡には地区名を記した大型のモニュメントがありますが、記されているのはあくまで「地区名」。このモニュメントは駅名や駅跡を示すものではないようです。その証拠に、駅名標の隣駅表示よろしく隣地区表示があり、先は能美線次駅「灯台笹」ですが、手前は駅にない「和佐谷」。ここ岩本から見て、手取川のこちら岸、天狗壁の反対側の地区名です。
このモニュメントは能美市設置ですが、旧辰口町の設置のようで、「次地区」とは岩本を起点とするサイクリングロードの次地区のようです。
能美線跡も「濃厚な」区間は終わり、以降はほぼ舗装路となります。
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